貯金・預金と税金

貯金・預金に税金が課される貯金税が導入された時の将来を読む!

貯金(預金)には現在のところ、貯金に対する利子収入に課される約20.315%(所得税+住民税+復興税)があるのみだ。普通預金でも1,000,000円の残高があれば、0.01%の利子が発生しており1年後の残高は1,000,100円になり、10,000円なら10,001円になる。この増えた分に約20%が課されるため、実際には1,000,080円が残高に残る。

現在の貯金には増えた額にだけ課税されているが、日本では貯金の残高に応じて貯金自体に課税する貯金税(預金税?貯蓄税?富裕税?財産税?)の導入が静かに検討されている。現に政府の諮問会議民間議員などを務めた伊藤元重氏(東大教授)が、「将来の財政問題を考えると、所得ではなく資産に課税するという方法もある」と発言していたり、維新の会の初期の公約案に貯蓄税が挙げられていた。マイナンバーを利用すれば導入可能という声もある。

課税される貯金額や税率などで状況は異なるが、税収不足に悩む政府としては法案を通す可能性も無くはない。貯金税が導入されると人々は如何なる行動・対策をとるか?を考えると、概ね7つのパターンが挙げられる。それでは、7つのパターンのメリット・デメリットと社会的な影響はどうなるだろうか? そして貯金税に有効性はあるのか?

貯金税(預金税・貯蓄税・富裕税・財産税)が発布された際の人々の行動とメリット・デメリットと社会的影響

まず第一に諦めて貯金税を「受け入れる」パターンが考えられる。消費税も受け入れた日本人なら考えられなくはない。この行動のメリットは、税金以上の支出は無いという点にある。下手に行動して脱税の疑いをかけられたり、損失が出る可能性もない。もしも貯金税の税率が0.01%なら、実質は普通預金で受け取れる利子が無くなるだけのため、すんなり受け入れられる可能性すらある。政府としては万々歳の展開だが、税率が高ければ家計への圧迫になるため個人消費が冷え込む可能性がある。結果的に消費税増税時のような景気対策を打つハメになるか、下手すると企業の業績悪化による不景気で法人税収が減ることも考えられる。

次いで考えられるのは「消費に回す」というパターンだ。2000万円から貯金税が課されるなら預金残高が2200万円の人は200万円分を使おうと考えるだろう。200万円分で絶対に使う日用品(食料・トイレットペーパー等)を買い溜めしてもよし、美術品・骨董などを購入して資産運用にしてもいいだろう。ただ、その際には商品価格の高騰で済めばいいが品不足になる可能性もあり、思わぬ高値を掴まされたり現金が減るデメリットがある。この場合も政府としては悪くないが、消費の反動減や以後の個人消費の冷え込みが残る。

上記にも関連するが、「タンス預金する」というパターンもある。上述の例でいえば、はみ出る200万円を引き出して何も購入せず、自宅の金庫に入れておくという手だ。これなら課税もされず、無駄に現金も減らない。ただ、盗難・空き巣というリスクを考えれば金庫を購入したり警備会社が必要かもしれない。その頃には、現在のような振り込め詐欺ではなく、空き巣が全盛期を取り戻す可能性もありそうだ。政府としては微妙なところで、この実質的な脱税に対策を講じる必要があり、空き巣対策に警察の人員増加も必要になるかもしれない。

また、銀行としては預金の流出が起こるため、貸し付けや運用に回せる額が減り規模によっては経営危機に陥る可能性がある。課税される最低貯金額が低く、取り付け騒ぎ(預金者が預金・貯金等を取り戻そうとして、金融機関の店頭に殺到し混乱すること)に発展すれば、経済活動の一時的な混乱は避けられない。

銀行のベストシナリオは、人々が預金を「投資に回す」というパターンだ。預金では課税されるが投信・株式・債券の保有は非課税なら、それらの売買手数料が入る銀行・証券会社には売上・利益増に繋がる。預金者のメリットとしては、課税回避だけでなく利益が出る可能性があることだ。反面、課税されたであろう税額以上の損失が出る可能性がデメリットとなる。政府としては税収増は達成できないが、貯蓄から投資へは実現でき、株価上昇による景気浮揚効果で税収増があるかもしれない。ただ、投資バブルの生成がネックになろう。

金融商品ではなく「不動産購入に回す」というパターンも考えられる。住宅ローンの頭金を貯めている人が計画を早めるだけでなく、投資用物件を購入して課税回避だけでなく賃料収入を得ようとする人も出てくるだろう。ただ、その場合には不動産価格が高騰し、良い物件が手に入るかがデメリットになる。また、不動産を購入できない人は家賃が高騰するため、家計が圧迫されて個人消費が冷え込もう。さらに、不動産価格の高騰を見越した海外の投資家が不動産購入合戦に参戦してくるようだと、都心は人が住んでいないゴースト物件が増え、そこで実際に働いている人は何時間もかけて通勤する事態も起き得る。政府としては微妙で、貯金税による税収が減るため不動産所得税・固定資産税を増税、外国資本の規制に走ることになりそうだ。

そして、最も富裕層が考えそうなのが「海外の銀行の口座に移す」というパターンだ。現在でも海外の銀行で口座を開設すること自体は違法ではなく、確定申告をして利子に対する税金を納付すれば問題ない。預金残高が1億円を越えても日銀経由で財務大臣に報告書を提出すれば問題ない。預金者としては貯金税は課税されず、外貨の金利収入が入るメリットがある。ただ、それを見越した円安が進み為替差損が発生する可能性があるのがデメリットとなる。

ただ、この方法は貯金税の導入段階で政府が真っ先に潰す可能性が高く、貯金税の導入前に違法・脱税にするか、海外送金時に課税する可能性がある。また、日銀金融緩和などと異なり実需が動いて円安が進行するため、その不明な規模と助長する投機家の動き次第で破壊的な円安が進行する可能性がある。政府・日銀はハイパーインフレにならないように、四苦八苦することになるだろう。銀行も預金流出に加えて、日銀の金融引き締めによる影響を受ける可能性がある。

最後が、海外銀行の口座開設に留まらず「海外に移住する」というパターンだ。この場合、貯金に課税されず、物価の安い国で豪華な暮らしができるメリットがある。その反面、海外移住の場合には言語・習慣の問題や家族と離れる点、詐欺に遭う可能性がデメリットになる。ただし、貯金税を回避するだけなら国籍だけ移して、日本にビザで住み続けるという荒業もできる。この場合も円安が過度に進行するリスクがある他、政府としては優秀な人材の海外流出と人口減、そして国の成長率鈍化に悩むだろう。銀行も前例の状態が考えられる。

以上が貯金税が課された場合の、想定される行動とメリット・デメリット、起こるであろう社会的影響だ。税額・税率・条件にもよるが、普通の人は消費に回すかタンス預金にする人が多そうだ。いくばくか金融の知識があれば投資か不動産に回し、真の富裕層は海外の銀行か移住する人が多いだろう。いずれにせよ個人としては、自分の資産・考えに合った方法を選択すればいい。

他方で政府(正確には官僚)として、導入すべきか否かはどうか。貯金税の導入により日本全体の現金預金の850兆円に1%でも課税できれば8兆円の税収になり、消費税の3%引き上げの5兆円より魅力的な数字ではある。ただ、実際には景気冷え込みなどでトータルでの税収増になるか分からない。さらに貯金税に伴うリスクは消費税導入時と似通ったものもあるが、貯金税独特のリスクもある。どんな政策・税制にも二面性がある当然だが、国内の優秀な人的資源まで流出するリスクは大き過ぎる。人口減の日本では、人口減を止める策を打ち労働力の多様化を計りつつ、人的資源の質向上が求められる。政府としては、人的資源のリスクを回避する術があるなら貯金税は是、回避できないなら非と考えるべきなのではないか。