普通分配金のみの投資信託とは?
収益分配金(分配金)とは投資信託が運用で得た収益を、決算毎に個人投資家に還元する金銭です。分配金は普通分配金と特別分配金(元本払戻金)に分かれます。元本払戻金は元本を下回る部分から支払われるため、実質は預かった資金を返すだけです。一方の普通分配金は元本を上回る利益から支払われた分配金です。
両者を区別できていない投信の購入者もいましたが、特別分配金を元本払戻金とも呼ぶことで両者が別物であることは一定程度は浸透しました。その結果なのか、利益である普通分配金だけ受け取りたい個人投資家が増えています。
それでは普通分配金のみの投資信託はあるのでしょうか? 答えは「ほぼ無いが僅かに存在する」です。その答えに辿り着く前に、普通分配金のみの投信の特徴を押さえておきましょう。
普通分配金のみの投資信託の特徴
受け取る分配金が普通分配金になるか特別分配金になるかは、同じ投信を購入しても人によって違います。人によって購入時の基準価額が異なり、元本(個別元本)の金額に差があるからです。具体例で考えてみましょう。Aさんは基準価額が9500円の時、Bさんは基準価額が10500円の時に投信を購入したとします。基準価額が11000円まで上昇した決算日に2人とも1000円の分配金を受け取ると、どうなるのでしょうか?
Aさんにとっては分配金は全て普通分配金ですが、Bさんにとっては半分が特別分配金となります。Bさんが特別分配金を受け取らないためには分配金が500円だったら良かったわけです。これで一件落着に見えますが、仮にCさんが基準価額が10750円の時に購入していれば500円のうち250円が特別分配金になります。分配金を250円にしてもDさんがいて、125円にしてもEさんが・・・と続きます。
1人に配慮しても誰かが特別分配金を受け取ってしまいます。決算前日(分配前日)の基準価額で購入した人まで含めると、分配金が無い限り誰かが特別分配金を受け取ります。そのため冒頭で述べたように「普通分配金のみの投信はほぼ無い」といえるのです。
“ほぼ無い”の一言で終わらせるのは簡単ですが、僅かに存在するのは確かです。なぜなら投資信託のタイプによっては前述のループに陥らないからです。そのためには購入する投資信託が「クローズドエンド型」か「私募」か「単位型」である必要があります。そうでない投信でも工夫次第では、普通分配金のみの投信に近づけられます。次に各々の投信・投資手法について解説していきます。
普通分配金のみの投資信託
普通分配金のみの投資信託は「クローズドエンド型」ならあり得ます。投信にはオープンエンド型とクローズドエンド型があり、前者なら解約時に運用会社が解約分だけ資産を売却して換金します。クローズドエンド型だと運用会社が資産を売却して換金してくれず、自分で買い手を探して売却せねばなりません。投資家が不便なためオープンエンド型が大半ですが、クローズドエンド型のベンチャーキャピタル等は、普通分配金のみの投信である可能性があります。
あなたが複数の非上場企業に出資するベンチャーキャピタルに一口投資したとします。非上場企業が上場して株価が高値になれば、ベンチャーキャピタルは利益が出て分配金が受け取れます。その一方で上場できず倒産する可能性もあり、全ての企業が上場しないとベンチャーキャピタルの正確な現在価値は分かりません。分配金を受け取っても、それが基準価額が購入時より高い時かは不明なのです。そのため普通分配金のみの投信である可能性があります。
また、「私募」投資信託も普通分配金のみである可能性はあります。私募投信は公募投信と異なり投資家が5~50人以下に限られます。私募投信ならメンバー全員が利益が出たら分配金を出すルールを作れます。ただ、私募投信は怪しいファンドや詐欺まがいのファンド(資金を集めて逃げる)もあります。クローズドエンド型と私募の投信には可能性はありますが、どちらも個人投資家は手がけにくいです。
そのため「単位型」の投資信託で普通分配金のみの投信を探す方が賢明です。今主流である追加型の投信とは異なり、単位型は募集期間後は購入できません。募集期間は投信の運用開始前ですから、基準価額が運用スタート時の1万円で購入することになります。購入者全員が1万円で保有しているなら、運用会社は普通分配金のみ出せます。
例えば「ゴールドマン・サックス社債/国際分散投資戦略ファンド 愛称:プライムOne2018-09」という単位型の投信があります。ゴールドマンの円建て社債に投資し、設定から10年後の満期時に元本確保(1万円以上)することを目指しています。直近の分配金は1万円を超えた時点で支払われており、全ての購入者が普通分配金のみを受け取ったことになります。元本確保を目指す以上は今後も基本的な方針は同じでしょう。
この投信は証券会社ならSBI証券・大和証券・楽天証券等、銀行なら三菱UFJ銀行・みずほ銀行・地方銀行(北洋銀行・広島銀行・横浜銀行等)で販売されました。今から購入はできませんが、2018年9月の第一弾に続いて2019年1月に第二段が販売されましたから、今後も販売される可能性があります。また、似たような投信は今後も出てくるか既にあるはずです。最も現実的な「普通分配金のみの投信」といえます。
しかし、単位型の投信の数は少なく募集期間も1ヶ月程度と短いという注意点があります。さらに自由に解約できるタイプと一定期間は解約できないタイプがあります。また、先ほどの投信も基準価額が1万円を下回る時があったように、景気次第で長期間に渡って分配金が受け取れない事態も十分に考えられます。投信には損失が出る可能性がある点を忘れずにおいて下さい。
限りなく普通分配金のみの投信
自分が求める単位型の投資信託が販売されるのを待つ以外に、限りなく普通分配金に近い投資信託を自分で作る手もあります。特別分配金は再投資して「普通分配金のみの投信」に変えれば良いのです。特別分配金を再投資すれば購入した投信の平均取得単価は下がりますから、いずれ基準価額が上昇すれば普通分配金のみの投信に変わります。
再投資となると手数料が気になりますが、2019年末頃からネット系証券会社は投資信託の手数料無料化をし始めています。それも分配金が出る限りは再投資できますから、株式のナンピン買いと異なり追加購入する資金が不足する心配はありません。
注意点は再投資が将来的に上昇することを前提としている点です。基準価額が上昇しないうちは延々と再投資することになります。最悪、分配金が出なくなれば再投資もできず、普通分配金を受け取ることなく満期償還という可能性もあります。どの投信を選ぶかが非常に重要となります。
まとめ
以上のように普通分配金のみ投資信託は、数は少ないですが存在します。従来の投資信託に一工夫を加えることでも実現できます。ただ、分配金については普通分配金か特別分配金かを気にする以上に、「分配金の健全度」にも注目した方が賢明です。
分配金の健全度は、運用会社が運用で利益を出して分配金を出したかを測る指標です。投信によっては近年は運用難で利益が出てないにも関わらず、今までに貯めた利益から分配金を捻出しています。要は見かけだけ分配金を維持しているのです。分配金の健全度は日経新聞で記事になったりランキングが掲載されることがあります。さらに自分で投信の運用報告書を見れば、分配金が当期収益から出ているかで判断できます。
投信を探す時には見かけだけの分配金にも惑わされることなく、自分が納得できる投資信託を探しましょう。