株式累積投資でインサイダー取引になるケースとは!?

累積投資とは定期的に一定額を購入して積み立てる投資方法で、月々1万円からと少額で手軽に始められます。ただ、累積投資する企業の内部情報を知りえる人は、インサイダー取引にならないか注意する必要があります。

インサイダー取引とは、会社内部の情報を知る人間が重要事実の公表前に売買を行うことです。その対象は上場企業の社員・アルバイト・取引先企業の社員等といった会社関係者と、会社関係者を通じて情報を得た情報受領者(社員の妻等)が含まれます。インサイダー取引をすると金融商品取引法により罰金や懲役刑が科せられます。

会社関係者のインサイダー取引規則(出典:証券取引等監視委員会 インサイダー取引について 平成26年3月7日)

そのため「累積投資を始めた翌月に株価が暴騰した」場合、重要事実を知らなかったとしてもインサイダー取引だと疑われるかも?と不安になりそうです。または「累積投資の開始日に株価が暴落して割安で買えた」場合でも不安になるかもしれません。

しかし、大半の累積投資はインサイダー取引に該当しません。なぜならインサイダー取引で問題視される取引(違法行為)と累積投資では時間軸が大きく異なるからです。その一方で、少なからず累積投資でもインサイダー取引になるケースもあります。

以下では、累積投資でインサイダー取引にならないケース、インサイダー取引になるケース、インサイダー取引にはならないが注意すべきケースの3つを解説します。

株式累積投資でインサイダーにならないケース

まず押さえるべきポイントは「累積投資による買い付けはインサイダー取引にはならない」点です。この点については日本証券取引所(JPX)のインサイダー取引に関するよくある質問に明記されています。

るいとうによる買い付けはインサイダー取引規制の対象となりますか(出典:日本証券取引所 インサイダー取引に関するよくある質問)

前述の「累積投資を始めた翌月に株価が暴騰した」ケースもインサイダー取引にはなりません。累積投資の開始月がラッキーだっただけで、その後も粛々と株式を毎月買い付けるからです。累積投資により株式の取得単価は数年間の株価変動の平均値に収束します。

ただ、このケースでもインサイダー取引だと疑われる可能性はあります。それは暴騰した4月に株式を売却してしまった場合です。先ほどのJPXのよくある質問の回答でも、株式の売却はインサイダー取引規制の対象だと記述されています。そして、少なくとも累積投資開始の翌月に売却するようでは累積投資とは看做されません。

あくまで疑われる可能性で、実際にインサイダー取引になるかは他の要件(重要事実を知りながら等)を満たすかによります。他の要件も満たすなら、取引額は無関係のため数万円でもインサイダー取引になります。ここで「じゃあ累積投資になる期間は何ヶ月?」という疑問が浮かぶかもしれませんが、そのあたりも含めて続けて解説していきます。

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株式累積投資でインサイダーになるケース

株式を累積投資で買い付ける限りはインサイダー取引の対象外で、株式の売却だけが対象となります。つまり重要事実を知って公表前に売却すればインサイダー取引になるわけです。こういうと空売りで利益を出すのをイメージしがちですが、累積投資の売却でもインサイダー取引になります。

例えば、A社の株式を累積投資していて、A社が大変な不祥事を数日後に公表することを内部情報で知った場合はどうでしょうか。不祥事の発表前に株式を売却すればインサイダー取引になります。それもインサイダー取引には損得が無関係という点にも注意が必要です。

先ほどの例で不祥事発覚前のA社の株価が900円で、累積投資した株式の平均取得単価が1000円だとします。売却しても100円の損失が出ますがインサイダー取引になります。他の投資家が不祥事後の安い株価で売却せざるを得ないのに、自分だけ回避している点が問題となるのです。

利益が少額、もしくしは損失が出た場合もインサイダー取引規制の対象となりますか(出典:日本証券取引所 インサイダー取引に関するよくある質問)

こういった売却が偶然に起きる可能性は否定できません。重要事実を知らず元から株価が900円になったら損切りする予定だったのが、偶然にも翌日に不祥事が発覚するかもしれません。インサイダー取引の他の要件を満たさない限り処罰はされませんが、売却から何日後の不祥事なら疑われないか不安が残る人もいるでしょう。

ここまで読んで、買い付けは自由だが売却するには不自由な片道切符だと思うかもしれません。ただ、こういった不安を全て払拭する対処方法に「知る前契約・計画」があります。

対処方法(知る前契約・計画)

知る前契約・計画とは「重要事実を知る前に締結・決定した株式の売買に関する契約・計画」です。特定の形式もなく紙1枚を作成してコピーを証券会社に提出するだけです。書面には、重要事実をする前であること・売買する銘柄・期日・数量か金額を記入すれば事足ります。詳細は日本証券取引所(JPX)の知る前契約・計画に関するよくある質問を参照して下さい。

「3月から累積投資を始めたら4月に株価が暴騰した」時、知る前契約・計画があればインサイダーと疑われることなく売却できます。知る前契約・計画のポイントは、売買する期日・数量・金額に一定の条件を付けられる点です。例えば、売却する期日を「株価が取引時間中に1000円を超えた日」とすれば上昇を逃しません。損切りする場合は「株価が終値で900円を下回った日の営業日」とでもしておけば損切りできます。

「累積投資になる期間は何ヶ月?」という疑問への回答はありませんが、累積投資中の株価上昇でもインサイダーにならず売却することは可能です。ただ、この万能とも思える「知る前契約・計画」を持ってしても注意すべきケースがあります。それは社内規定により投資が制限されているケースです。

社内規定(就業規則)で問題になるケース

上場企業によっては自社の株式の購入を社内規定(就業規則)で厳しく制限していることがあります。それが累積投資であってもです。そもそも従業員持ち株会があったり、インサイダー取引に抵触するのを防ぐためといった理由が考えられます。

業種によっては、自社以外の株への投資でも就業規則で制限することがあります。マスメディアであれば取材対象となる企業には投資できない(恣意的な報道を防ぐ)ことがあります。銀行であれば自行が融資している企業は、部署や担当か否かを問わず制限していることもあります。

そのためインサイダー取引にはならないが、会社から懲戒処分は受ける可能性があります。譴責処分で始末書を書くだけでもキャリアに傷が付きますが、減給で給料が減れば元も子もありません。投資する前に就業規則を読むか、関係部署に相談してみても良いでしょう。

まとめ

以上のように累積投資でもインサイダーになるケースとならないケースがあり、社内規程で問題となるケースもあります。もしも面倒なら自社や取引先企業の株式は、累積投資であっても止めるのも1つの手です。

どうしても業界知識を使いたいなら、自社・取引先企業以外の類似企業を探しましょう。アパレルに詳しいがファーストリテイリングが難しいなら、しまむら・無印良品あたりを検討してみれば良いのです。海外株式まで広げればアバクロ・GAP等々まで候補に入ります。

また、日経平均などのインデックスに累積投資すればインサイダーにはなりません。指数そのものの内部情報は存在せず、指数を構成する個別企業の内部情報が手に入っても指数への影響は限定的だからです。