日銀短観を補う地域別の日銀支店短観
日銀短観は日銀が四半期毎に全国の企業を対象に業況をヒアリングする統計調査です。日銀本店が発表する全国短観には2002年までは地域別動向がありましたが、2003年からは廃止されています。ただ、全国の日銀支店が支店短観を四半期毎に公表しているため、それで地域別の景況感を推し量ることが可能です。
それも日銀には本店以外に32の支店と14の国内事務所があり、ほぼ日本全国を網羅(日銀支店・事務所一覧)しています。和歌山・鳥取・島根等々には支店がありませんが、近くの県の日銀支店がカバーしています。
その他にも日銀短観を補う地域別の日銀データは存在します。それらを活用すれば全国規模では分からない地域別の景況感、地元企業を取り巻く経営環境などが見えてくるでしょう。
業況判断DI
日銀短観の中でも特に注目される指標が業況判断指数(業況判断DI)です。これは全国の企業経営者に自社の業況について、「良い」と答えた人から「悪い」と答えた人を差し引いた比率です。数値がプラスであれば業況は良いと判断している経営者が多いことになります。
地域別の業況判断DIは、日銀本店のHPからは全国と関東甲信越と東海地域しか確認できません。しかし、さらに詳細な地域別の業況判断DIは支店短観から確認ができます。下図は日本銀行釧路支店の支店短観の業況判断DI(2019年9月分)です。全国平均と比較することで、北海道独自の業況に加えて道東地域に限った業況が見えてきます。
例えば、1980年代のバブル景気の際には北海道も全国と同じようにDIが上昇しました。しかし、2000年代前半のリーマンショック前の好景気時は、全国のDIが上昇したのに北海道・道東地域のDIは上昇しませんでした。この時期は好景気というより景気回復局面というのが正しいかもしれませんが、どちらにせよ北海道は取り残されたことが分かります。
このように地域別の業況判断DIは地域の景況感を測るのに役に立ちますが、この指数だけで景気そのものは安易に判断できません。なぜならバブル景気絶頂の1990年は日本中が好景気に酔いしれましたが、業況判断DIは50程度です。高い数字ではありますが、それでも景気が悪いと答えた人がいることを示しているからです。
日銀支店短観と金融経済概況
日銀には本店以外に32の支店と14の国内事務所があり、事務所でも地域別に短観が四半期毎に発表されています。さらに月次で公表される金融経済概況でタイムリーな景況感を知ることも可能です。これらには地域毎の特色が見え隠れします。
例えば、日銀釧路支店では主要金融経済指標の生産動向で水産水揚高・乳製品生産量・生乳生産量などが記載されています。また、名古屋支店・広島支店の金融経済概況の本文では、管内にトヨタ自動車・マツダ自動車があるため、自動車についての記述が頭に出ることが多めです。
また、京都には文化遺産も多く、大分には別府や湯布院等の温泉地があるため、これらの支店では観光業への記述にスペースを割いています。さらに支店毎に地域の独自調査を行って、その地域に発生したトピックの経済波及効果を調査しています。
例えば、鹿児島支店では2017年に「大河ドラマ 西郷どんの経済波及効果」、秋田支店は2018年に甲子園準優勝した「秋田県立金足農業高校の活躍に伴う当県経済への影響」、横浜支店は2019年に「ラグビーワールドカップ開催が横浜市経済に与える影響について」を調べて公表しています。
月次・四半期のデータに急激な変動やブレが生じた場合は、こういった独自調査を確認することで補完することができるでしょう。
日銀 地域経済報告(さくらレポート)
特定の県か地域の景況を知りたいなら支店短観なりを使えば良いのですが、地域別の景況を一覧で知りたい場合もあるでしょう。どの地域が特に景気が良いか悪いかを一目で理解したいなら、地域別経済報告(さくらレポート)で把握できます。
さくらレポートは日銀が支店長会議に向けて地域別に経済データを取りまとめたものです。アメリカの地区連銀がまとめた地域別の地区連銀景況報告は通称ベージュブックと呼ばれるのにならってか、地域経済報告ではなく「さくらレポート」の愛称が付けられています。
さくらレポートでは各地域の景気の総括判断を、四半期毎に改善したか横ばいか悪化したかが分かります。さらに需要項目を公共投資・設備投資・個人消費・住宅投資・生産・雇用と所得に分けて、各地域を一覧で確認可能です。2019年10月版では北海道のみ改善して、景気が「回復」から「拡大」に判断が引き上げられました。
さくらレポートを見て、気になる地域があれば日銀支店の短観や金融経済概況で確認するのも手です。逆に経営者であれば地元の日銀支店の短観を読んだ後に、他の地域を確認するためにさくらレポートを利用するのも良いでしょう。
まとめ
以上のように日銀短観に加えて、日銀支店の支店短観と金融経済概況、さくらレポートを活用すれば日本全国津々浦々の景気動向・景況感を把握することが可能です。
投資にあたっては、全国的に知名度が低い地元の有力企業を見つける手がかりになるかもしれません。また、景気が良い地域を見つけてから投資先になる地元企業を探しても良いかもしれません。