生命保険 解説・用語集

終身保険は本当に必要か?

終身保険は死亡保障以外に教育資金・老後資金・相続対策のいずれかを目的にして契約する(目的に応じた終身保険を参照)のが普通だが、目的が明確とはいえ本当に終身保険は必要なのだろうか?

まず最もベーシックな死亡保障だが、保険会社の言い分としては「一家の大黒柱(収入源)が絶たれたとき、残されたお子様や家族の方の生活が不安でしょう」というものがある。事実のようだが、確率と他の保障を度外視しているため、ただの耳障りの良い定型句でしかなく何の的も得ていない。

まず、自分が死亡する確率を年齢別に確認したい。下図は厚労省の年齢別の死亡数と死亡率のデータ(※死亡率は人口10万対のため注意)の20~79歳の箇所を抜粋したものだ。働き盛りと呼ばれる30代だと死亡率は0.14%、40代だと0.3%、50代で0.7%、60代でようやく1.6%になる。60代で同窓会を開いたとすると、40人学級のクラスなら死亡した同級生が1人いるかいないかという程度だ。そのため、確率からすれば死亡保障としての終身保険の必要性は"ない"。

年齢別死亡率(20~79歳)

次に教育資金を目的とした場合、低解約返戻金型の終身保険などを検討することになる。子供が私立大学に進学した場合だと月額12~15万円の出費、自宅外からの通学で仕送りも必要だと17~20万円の出費が見込まれる。これらの出費を差し引いても夫婦で十分に生活できる収入・貯蓄があるなら、わざわざ保険を利用する必要はない。一方で明らかに家計を圧迫するなら、子供が小さく出費が少ないうちから保険を契約するのは有効な手段となる。そのため、教育資金としての終身保険の必要性は"半々"といえよう。

3番目に老後資金を目的とした場合だが、個人年金保険は必要か?で既述したように夫が会社員で厚生年金、妻が国民年金であれば一応は生活費は事足りる。ただし、自営業で国民年金のみであったり、60歳で定年退職し65歳まで働かない、ないしは60歳前に早期退職するようだと保険か何かしらの資産運用が必要になってくる。また、夫(厚生年金)が65歳以上で死亡すると厚生年金は減額→無くなるため、残された妻(国民年金)の生活は一気に苦しくなる。その際には個人年金保険は元より、終身保険にも前述の死亡保障とは別の意味で必要性が出てくる。夫婦ともに平均寿命で死亡するなら最低300万円の貯金は必須だが、夫が早く死ぬと踏めば500~1,000万円は余分に貯金を見込みたいところだ。貯金が無い程に必要性は大きくなる。そのため、老後資金としての終身保険の必要性は"ややある"。

最後に相続対策を目的とした場合だが、2015年から相続の控除が減り、3,000万円+(600万円×法定相続人の数)を相続する額が超えるようだと相続税の申告が必要になる。相続税には土地・建物といった不動産もカウントされるのが厄介で、都市圏で土地・建物を持っていると相続税に引っかかる可能性が高い。それも土地・建物は住んでいるため売れない場合、現金が相応に必要になってくる。

特に地主やマンション・アパートのオーナーだと、相続税が数千万円から億単位になり納税資金は馬鹿にならないケースがある。こういった場合の終身保険の必要性は疑いようがない。もちろん、不動産を整理するという前提で、残す不動産を担保にして銀行から一時的に融資を受けるという手もある。ただ、それを残された家族がするとなると、自分が死亡する前に保険で対策を打つのは妥当かつ賢明な判断だ。そのため、相続対策としての終身保険の必要性は"ある"。

以上のように、目的によって終身保険の必要性は変わってくる。必要性が乏しい目的の場合には、目的に応じた終身保険の選び方で記載した図も参照して貯金か他の保険・金融商品を検討するといいだろう。逆に必要性が高い相続対策の場合には、まずは終身保険を契約した後に、不足するなら生前贈与などを検討するといいだろう。