生命保険 解説・用語集
介護保険は本当に必要か?
介護保険には地方自治体が運営する「公的介護保険」と、民間の保険会社が提供する「民間介護保険」がある。公的介護保険の必要性は疑いの余地がないが、民間の介護保険まで本当に必要なのだろうか?
そもそも民間の介護保険(以下、介護保険)を検討する人は、多かれ少なかれ両親・配偶者・自分が介護状態になった際の金銭的な負担を懸念して、介護保険を検討していることだろう。金銭的な負担を収入・支出を明らかにして必要性を考えてみたい。
まず、介護が必要になる年齢は平均的には早ければ75歳以上だが、正確には80歳以上からと考えられる(詳細は介護が必要になる年齢は?を参照)。もちろん、事故などで例外的に40代で介護状態となったり、脳卒中で50代から介護状態になる可能性も僅かだが存在する。
介護期間は平均5年だが、全体の12%の確率で10~15年程度を見込んでおく必要がある。そして、必要な介護費用(公的介護保険を利用した場合の自己負担額)は在宅介護なら平均で月額2万円、施設入所ならグレードにもよるが平均で月額9~14万円が必要となる(詳細は介護に必要な費用はいくら?を参照)。在宅介護の月額2万円は、あくまで訪問介護・デイケアの費用であり、食費・光熱費・家賃は別途必要になる。総務省調べでは高齢者の平均支出は夫婦で24万円、単身だと15万円(詳細は個人年金保険は必要か?を参照)となっており、介護費用が平均支出に加算されると考えるべきだろう。他方で施設入所だと食費などは込みの金額だが、娯楽・サークル活動をするようならオーバーする可能性はある。
以上は支出面に関してだが、それでは収入面はどうなのだろうか。既に定年退職して再就職していない場合には、主な収入源は年金か、不動産収入、株式や投資信託等の売買益・配当・分配金、保険の給付金なども考えられる。ギャンブル性が強い競馬・競艇・パチンコ・宝くじなども一時収入としては挙げられる。ただ、後半は現実的ではないため除外していいだろう。色々な可能性を挙げたが、一般的には年金が収入の主軸となるだろう。現在の年金の平均受給額は、自営業・フリーランスで国民年金に加入していると月額5.4万円、会社員で厚生年金だと15万、公務員で共済年金だと17万となっている。一般的に夫が会社員で妻が専業主婦なら、厚生年金+国民年金で合計20万円程度となる。ただし、年金運用は厳しいため20~30年後も維持できているかは分からない。余裕を見ておく必要があるだろう。
それでは、いくつかのケースに分けて収入から支出を差し引いてみる。まず最も多いであろう夫婦で老後を迎え、夫婦いずれかが要介護状態となり在宅介護となった場合を考える。夫婦が共に厚生年金の場合、年金収入の月30万円に対して、支出は生活費を含めて月26万円となり年金で支出をカバーできる。他方で夫婦が厚生年金+国民年金の場合には収入が月20万円のため、毎月6万円の支出超過となる。ただ、介護の期間は平均5年で長くて10~15年のため、超過する支出の合計額は平均360万円、長いと720万円となる。自宅を介護リフォームするならプラス100~200万の貯金が欲しいところだ。
そして夫婦のいずれかが死亡した後、ないしは独り身であった場合だが、これは在宅介護か施設入所かで分かれる。この場合も前段と同様に収入が問題となってくる。生存しているのが厚生年金の受け取り手なら15万円の収入があるが、在宅介護の2万と生活費15万で2万のマイナスが出る。とはいえ120~360万円の貯金でカバーできる。施設に入所した場合は年金と多少の貯金で事足りるだろう。
一方で、国民年金の受け取り手が生存している場合には厳しくなる。在宅介護の場合は、遺族厚生年金で10万円の収入に対して介護+生活費の合計支出額は17万円のため、月7万円のマイナスとなる。施設だとグレードによっては年金でカバーできるが月4万円のマイナスとなる可能性もある。マイナスをカバーするには在宅介護で420~840万、施設だと240~480万円の貯金が欲しいところだ。
以上のことから、夫婦なら配偶者の介護分で360万円、自分の介護で240~480万円が貯金の目安であり、目安以上の貯金があれば介護保険は基本的に不要だ。2人分を合算した600~840万円、年金と公的介護保険の限度額の減少を見込めば目安の1.2倍の貯金があれば保険なしでも相当に心強い。また、貯金でなく退職金が残る場合でも問題はない。一方で目安の貯金額に達しないなら、介護保険の必要性は高い。要介護状態が長引く可能性も考えれば一生涯受け取れる保険がベターだが、介護一時金で目標額に近いものを選択するのも手だ。もしくは300万円程度の貯金はキープし、介護保険ではなく夫婦共に終身保険を契約しておくのも手だ。これで、どちらかに先立たれた後の介護にも十分に備えられる。