損害保険 解説・用語集

台風は増えている?増えたと感じるのは上陸数の増加以外の理由も!?

風災・水災は火災保険で被害に備えられるが、それでは風災・水災の主たる原因となる台風は増えているのだろうか? 気象庁の統計データ「気候変動監視レポート2017」を見るに、とりあえず台風の発生数は1950年から比較して増加傾向にはない。

台風の発生数の推移(出典:気象庁「気候変動監視レポート2017」)

まず左グラフの「台風の発生数」だが、年間20~30個程度で推移している。年によっては1960年代に40個以上、1990年代にも35個以上が発生していることを考えれば、最近はむしろ僅かに減少傾向にある。さらに右グラフは「強い台風の発生数と発生割合」だが、概ね50%が強い台風に分類されている。こちらも経年変化としては増加傾向にはなく、年々強くなってはない。

ただし、上図の台風の発生数の中には日本に上陸しないものも含まれている。それでは下図の気象庁の台風統計資料の「台風の日本への上陸数」を見てみよう。2005~2013年までは年間で台風の上陸数は2~3回で、上陸数が0の年もあった。それが2014年以降はコンスタントに4回を超えて2016年は6回、2018年は5回と多くなっている。2016年の上陸数の6回は、気象庁の統計開始以降で2004年の10回に次いで2番目に多い。

気象庁の2001年以降の台風の日本への上陸回数の一覧(出典:気象庁「台風の統計資料」)

そのため上陸数の多さが原因で、台風が多くなったという感覚になる可能性は否定できない。ただ、それだけでは不十分な考え方だろう。なぜなら、この数字は上陸せず接近しただけの台風はノーカウントだからだ。例えば一都三県(東京・神奈川・千葉・埼玉)だと、上陸せずとも接近して太平洋沖を北上しても影響がある。

そこで、同じく気象庁の「台風の関東甲信地方への接近数(伊豆諸島・小笠原諸島に接近した台風は除く)」の数字を見て欲しい。2016年以降はコンスタントに5回以上は台風が接近しているのが分かる。それも接近しただけの台風が含まれているため、2017年と2018年は日本への上陸数よりも関東への接近数の方が多い。これなら関東在住の人は余計に台風は増えたと感じても不思議はない。

気象庁の2001年以降の台風の関東甲信地方への接近回数一覧(出典:気象庁「台風の統計資料」)

そして、このデータは別の可能性も示唆している。それはテレビ等のマスメディアによる報道だ。日本のテレビ局は東京一極集中であり、当然ながら関東圏での災害が全国ニュースでもフォーカスされる傾向にある。それが人々の台風が増えているという感覚に拍車をかけている可能性がある。

ここまでで「たったの2~3回の増加で?」と思う人がいるかもしれないが、たったの数回でも影響は大きい。その理由は、台風シーズンが6~10月の5ヶ月間と短い点にある。5ヶ月間に上陸数が2~3回増えて5回になれば、約20週間のうち4分の1の週が台風の週になる。それもテレビは台風が上陸前から進路予想をするわけで、それで余計に台風ばかりに感じるのかもしれない。

ただ、それでも「そもそもテレビは見ない」「月1回どころか台風が毎週来る感覚だった」といった反論があるだろう。そういった感覚の人への答えは、インターネット・スマートフォン・SNSの普及にありそうだ。下図の「グーグルでの”台風”の検索トレンド」を見て欲しい。

2004年以降のグーグルにおける台風の検索トレンド(出典:グーグルトレンド)

気象庁によると過去最高の台風の日本への上陸数は2004年の10回、この年の関東の上陸数も7回と過去最高だ。しかし、検索数は2013~2018年の方が圧倒的に多い。総務省の2018年の情報通信白書のデータによると、2004年のスマートフォンの普及率は0%で、2012年に49.5%、2013年には62.6%、2017年には75%になっており、明らかにスマートフォンを通じて台風情報を得ている人が増えているのが分かる。

それも現在においては直接グーグルで検索しなくても、スマートフォンに天気予報アプリあれば、通知機能によりロック画面でも台風情報が知らされる。さらにスポーツ情報アプリでは「台風による試合中止」が通知され、乗り換え案内アプリではご丁寧に「週末の台風による影響」が表示される。それに加えてSNSにおいても台風情報が共有されるとなれば、いやがおうでも台風を意識せざるを得ない。そう考えると感覚的に「今年は台風だらけだった」になるのは止むを得ないだろう。

以上のように台風は根本的には増えてないが、上陸数が増えているのは確かだ。さらにテレビやスマートフォンによって感覚的に台風に接する機会が増えて、少し台風に対して過敏になった(逆に嫌気が差した)人が多いのかもしれない。ただ、家屋等の台風による被害は火災保険でカバーでき、過度に心配をする必要はない。自分の火災保険に風水害の補償が付帯されているか確認するだけで十分で、これから加入する人は忘れずに補償を入れておけばいいだけだ。