雑損控除と税金

火災・水害・津波・土石流等で被害を受けたら忘れずに雑損控除を!

所得税は税引き前の年収(給料)に直ちに課税されるわけではない。年収から所得控除を差し引いて課税所得金額を算出してから、その額に応じた税率で課税される。雑損控除も所得控除の1つであり、雑損控除により課税される所得が減り節税ができる(所得控除については所得控除って何?を参照)

所得控除の中でも雑損控除は、災害・盗難により住宅・家財に損害を受けた場合、災害関連の支出をした場合に利用できる。災害には火災・水害から、落雷・台風や竜巻などの風災、ひょうが空から降ってきたり、大雪で家が潰されるといった雪害も含まれる。盗難には空き巣の他に横領も含まれるが、詐欺・恐喝による損失は対象とならないため注意が必要だ。

雑損控除の対象となる資産は住宅・家財と記述したが、それは納税者ではなく納税者と生計を一にする配偶者や親族(所得金額が38万円以下)が保有する「生活に必要な資産」も含まれる。この「生活に必要な資産」には家具・家電などが含まれるが高級品・嗜好品は含まれない。例えば骨董品・美術品・貴金属等で1個または1組の価額が30万円を超えるものは、雑損控除の対象外となるため注意が必要だ。

それでは雑損控除の額の計算方法だが、2通りある内の雑損控除を利用する人が有利な(控除が大きい)計算式を採用できる。どちらが有利かはケースバイケースのため、自分で計算してみるしかない。

雑損控除の2通りの計算式

どちらの計算式にも出てくる“損失額”だが、これは災害を受けた資産の時価と災害関連支出を合算して、火災保険などで受け取った保険金を差し引いた額が損失額となる。前者の災害を受けた~は、火災で燃えた家具、床下浸水で濡れて使えなくなった家電などが該当し、イメージしやすいだろう。

災害関連支出は、それ以外の支出で「住宅、家財などを取壊し又は除去するために支出」と定義されている。具体的には家が全焼して取り壊すことになった場合の費用、家が半焼して倒壊を免れるための緊急的な修繕費用、雪下ろしや害虫駆除の費用も含まれる。

昨今の異常気象で頻発している土石流(土砂災害)については、国税庁HPによると「土砂を除去するための支出は、災害のやんだ日から1年以内(大規模な災害の場合等には、災害のやんだ日から3年以内)に支出したものが対象」と記載されている。土砂災害が止まってから1年以内に負担した土砂の除去は災害関連支出となるが、1年以上の長期間に渡って放置しているようだと対象とならないということだ。

また、住宅が全焼・倒壊して住むことができなくなり、一時的にホテル住まいとなった場合の宿泊費・交通費などは災害関連費用とはならないため注意したい。ただ、東日本大震災などの大規模な災害では、これらも特例で認められるため諦めるのは禁物だ。

それでは、雑損控除の計算式の1・2のいずれが有利か?ということになると、前述したようにケースバイケースとしか言いようがない。仮に年収500万円の人が、火災で100万円の資産(家具・家電等々)を失った場合、計算式①だと「100万円-500万×0.1=50万円」で控除額は50万円となる。他方で、火災で家財は持ち出したが、消火が遅れて建物が全焼し(修繕できるレベルではなく)取り壊して更地にしなければならない、といった場合もあろう。その場合には同じ100万円の損失でも、計算式②の「100万-5万=95万円」を採用した方がいいことになる。

ちなみに、雑損控除を利用せずに災害減免法による所得税の減免措置もある。以下が利用するための条件と、所得税の減免額だ。

災害減免法の条件と所得税の減免額

仮に総所得金額が500万円以下だと所得税の全額が免除される。総所得金額が500万円なら約50万円の所得税が免除される計算だ。ただ、この制度は災害を受けた年度のみ利用でき、それ以降は減免されない。その点、雑損控除は控除仕切れなかった損害額を3年間繰越して、3年間は所得税を軽減できる。そのため、損害額が大きければ雑損控除の方が有利といえる。とはいえ雑損控除と災害減免法の有利不利は、年収と損害額によってケースバイケースとしか言いようがない。

以上が雑損控除(一部は災害減免法)で、災害で何かしらの損害が出た場合には忘れずに利用したい。ただ、規模にもよるが自宅で災害が発生すれば、生活を立て直すこと、支出と収入(+貯金)の計算、様々な計画の見直しが第一となるだろう。そんな多忙を極める中で、雑損控除や災害減免法を利用すべきと言っても無理な感もある。そういった場合には、税理士の無料相談、各自治体が主催する無料の税金セミナー(確定申告の相談会)などを利用した方がいい。遠回りなようだが、その方がスピードも確実さも増すことがある。