不動産会社が語らぬ不動産投資に不都合な事実

銀行が暴走させた土地神話から不動産オーナーが学べること!

アパート経営などの不動産投資では、銀行からのアパートローン(不動産投資ローン)を利用することが前提となる。そして、その銀行が暴走した結果が、土地神話の崩壊とバブル崩壊といえるだろう。かつての土地神話から不動産オーナー(不動産投資家)が学べることは何なのだろうか?

まず、土地神話についてだが、古くは1972年に田中角栄首相が「日本列島改造論」を唱えて、公共交通機関の充実からの経済成長を謳った辺りから始まっている。これによって開発予定地の買い占めから地価が急騰し、土地の価格は必ず騰がるという土地神話の下地ができた。増え続ける日本の人口に対して土地は有限であるため、土地が不足して値上がりするという考えが、まことしやかに巷では語られていた。

日本列島改造論の記憶も薄れ掛けた頃、1985年のプラザ合意によって僅か1年の間に1ドル=200円から1ドル=160円までの超円高になった。製造業の輸出が主力の日本では深刻な不況になったため、政府が財政出動(道路整備などの公共事業の増加)を行い、日銀は金利引き下げといった金融緩和を行った。その結果、市場と銀行にあり余った資金が向かったのが株と土地だ。

株価上昇の理屈としては、円安によって企業は業績は伸びるはずだから株価は上昇する、大型上場として注目されたNTTの株価が2ヶ月で3倍になったため、株は買えば儲かるという考えが風潮としてあったことも大きい。日経平均は1万円から3.8万円という過去最高値まで跳ね上がった。

他方の地価高騰は、銀行が金融緩和によってあり余った資金の新たな融資先として、土地神話を利用したのが大きい。金融緩和によって緩やかに始まった地価上昇に目をつけて、土地開発やデベロッパーに一気呵成とばかりに融資を行った。今では信じられないが、5000万円の担保価値しかないであろう土地に、土地神話による値上がりを見込んで6000万円まで融資することもあったようだ。これは不動産の再調達額で担保価値を判断する原価法(再調達額が上がれば融資の限度額が上がる)で融資を判断していたのも大きい(物件内容の審査も参照)

ゆるゆるの審査基準は個人向けにも及び、会社員という属性だけで2~3億は不動産投資ローンが利用できるようになり、結果的にワンルームマンション投資・アパート経営が個人の間でも過熱していった。下図のように不動産向けの貸し出しは、前年比で25%増・30%増と劇的に増えている。

1980年代の不動産向けの銀行の貸し出し

そうした地価高騰によって、国民が住宅を取得するには一生をかけたローンでも無理な水準に達しており(孫の代までローンが残ると言われていた)、格差拡大への懸念と国民的な反発を招いていた。そこで1989年から日銀が2.5%から6%まで利上げをして、市場にダブついた資金の抑制に取り掛かった。当時の日銀の三重野総裁が「株価と地価を半分の価格にする」とバブル潰しを公言していた。政府も地価税の導入などで課税を強化していた。さらに1990年には大蔵省(現財務省と金融庁)が土地関連に対する融資の引き締め(総量規制)を行ったことで、銀行からの土地への融資基準が厳しくなった。融資が厳しくなったことで、新たな土地の買い手が現れなくなり、地価は急激に下落していき土地神話は崩れた。

地価下落によって、不動産会社が倒産したのは元より、土地を担保にしていた銀行も融資が回収できない不良債権が増え、銀行の業績も悪化した。倒産する銀行も出てきたうえに、銀行が貸し渋り・貸し剥がしを行ったことで、運転資金を失った製造業の中小企業の倒産も相次いでバブルは崩壊していった。

さて、土地神話・バブルの記述が長くなったが、シンプルに流れをまとめると「円高→金融緩和→株・土地の高騰→日銀の金融引き締め→崩壊」ということになる。この流れは近年のアベノミクスと日銀の金融緩和の流れに酷似している。

1980年バブルと2012年バブルの比較

先般のバブルと同じなら崩壊は金融緩和から4年後になるが、これは数字遊びでしかない。それよりも、明確に現在の地価上昇が終了する目安になるのは金融引き締めといえる。金融引き締めが開始されてから1年後、タイムラグを見込めば2年後には地価は下落する。現在、不動産投資をしている人なら、日銀が金融引き締めを開始したら出口を模索すべきだ。

ただし、1990年台よりも経済のグローバリゼーションが進行している点に注意したい。現在では各国(特にアメリカ)の金融政策が、各国の経済情勢に影響を与える度合いが大きくなっている。その意味で、アメリカで金融引き締め(利上げや総量規制)が開始された時点で、出口を考え始めてもいいかもしれない。バブルの旨みは最後にあると考えるなら、最初に反応するダウ平均などのアメリカの株価が下落したら投資物件を売却するという手もある。

以上が土地神話から不動産オーナーが学ぶべき点だが、アメリカの利上げを考えれば今から不動産経営に乗り出すのは既に遅いかもしれない。他方で、あくまで日銀の金融引き締めが起きるまで地価上昇が進むと捉えるなら、今が最後のチャンスともいえよう。どちらにせよ金融引き締めをトリガーにして、不動産投資の出口を検討するのが妥当ということは歴史から学べそうだ。