不動産会社が語らぬ不動産投資に不都合な事実

インフレで不動産価格が上昇するというのは幻想か!?

アパート経営などの不動産投資を始める際のキッカケとして、安定収入・相続対策などと共にインフレ対策というものがよく挙げられる。物価が上昇するインフレ下では、昔と同じような建物を建てようとしても原材料費・人件費が騰がっているため、不動産の価格が上昇するという理屈は筋が通っているように見える。しかし、この理屈を過去と照らし合わせると、不動産会社が型らに不都合な事実が浮かび上がってくる。

まず、下図の1980年以降のインフレ率の推移を見ると、1980年始めにはレーガノミクスと第二次石油危機とドル高円安(1ドル=約220円)であったためインフレ率は相当に高い。その後は概ね3%以内に収まっているが、それでも物価が上昇する局面は何度かあった。

インフレーション率の推移と景気変動

代表的なのが1986~1988年あたりから始まったバブル景気(平成バブル)で、この間のインフレ率は2.2~3.3%と現在の日米が目指す水準に近い。日本全体が狂喜乱舞していた時期でもあり、さらには1989年に竹下内閣が消費税3%を施行しているため、このインフレ率の高さもうなずける。バブル崩壊後にインフレ率が上昇したのは1997年だが、これは村山内閣が消費税を3%から5%に上げたのが全てといえる。

次に上昇したのが2007年あたりだが、この時期は「いざなみ景気」「かげろう景気」と呼ばれている。リーマンショック前の好景気や円安に加えて新興国ブーム(BRICS)が寄与した景気拡大の時期で、インフレ率は1.3%だが上昇している。最後が直近のアベノミクスによる景気拡大だが、これも景気拡大という側面だけでなく、2014年に消費税が5%から8%に増税されたのも大きい。

以上のように大きく4つの物価上昇局面があったといえるが、その間の不動産価格の動向はどうだったのか。下図は1983年以降の日本全国の地価推移と、東京都の地価動向推移だが、確かにバブル景気の時には地価は上昇している。1986年から日本全国の地価が上昇し続けたのに対して、東京は高止まりしているのは東京から地方へ波及したと予想される。

1980年以降の地価動向と推移

これだけ見れば、確かにインフレ率が上昇すれば地価が上昇するといえそうだ。しかし、その後の1997年の消費増税では地価は下落し、2007年あたりの景気拡大期でも地価は僅かな上昇に留まっている。さらにアベノミクスでは確かに地価は微かに上昇しているが、2007年ほどの上昇は見られない。東京五輪の影響で局所的な地価上昇はあるが、全国的にみれば軽微と言わざるを得ない。

1997年の消費税増税によるインフレ率上昇は、インフレ率が前年比で計算されるため一時的な物価上昇でしかない。かつ土地売買は消費税は非課税という点を考えれば、そのタイミングで地価が上昇しないのは合点がいく。他方で2007年の景気拡大期には、インフレ率が1%前後の上昇だったにも関わらず、地価は2007年には約10%上昇、2008年にも約8%上昇している。この点からも不動産投資はインフレに強いといえそうではある。

しかし、アベノミクス(+日銀の金融緩和)による物価上昇においては、地価は2014年に2.4%上昇、2015年に約3%上昇に留まっている。そして、この中には消費税が2014年に5%から8%に増税があったことを忘れてはならない。つまりは、2014年からの地価上昇はアベノミクスによるインフレ率上昇+景気拡大によるものではなく、大半が東京五輪の決定分だけであった可能性がある。

また、仮に今回の地価上昇が景気拡大+インフレに因るものだとしても、インフレ率に対して地価上昇分が2007年時よりも小さいことが気がかりだ。これは不動産はインフレに強いという定説に、ついに疑問符が付くことを示唆しているのかもしれない。人口動態少子化の影響で土地需要が減ったのが原因かもしれない。もしくは、持ち家ではなく高層マンションを志向する人が増えたことで、土地全体に対する需要が減ったのが原因かもしれない。原因は明らかではないが、何か変調が起き始めている可能性は否定できない。

以上が「不動産はインフレに強い」に不都合なデータだが、過去のデータを見れば不動産がインフレに強い事実は完全否定できない。しかし、少なくともアベノミクスによるインフレに対して、インフレヘッジとして不動産投資(不動産取得)をするのは疑問だ。また、定説が崩れる日が近づきつつある可能性もある。今から不動産投資をする人は、インフレヘッジが主たる目的なら、不動産投資をする意義は薄いのかもしれない。